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カンボジア 対中FTAの計算



EUは8月12日、カンボジアでの深刻な人権侵害への制裁措置として、関税優遇措置の一部停止に踏み切った。

対する中国はその直前の7月、カンボジアとの自由貿易協定(FTA)交渉が妥結したと表明。

フン・セン政権は近年、最大野党を排除して一党独裁を固め、反政府的な言論への弾圧も強める。

それを問題視するEUは、関税優遇の中でも後発途上国に最も有利な、武器を除いて全輸入品の関税を免除する「EBA(Everything But Arms)協定」の見直しに動いた。

再三の勧告にも改善がみられないとして、2020年2月に半年後の制裁発動を決めた。

決定の1週間前、まだコロナ禍のただ中だった中国へ飛んだフン・セン首相を、習近平国家主席は「EUに屈してはいけない」と激励。

合意したFTAは、年内にも発効する見通し。

カンボジアは親中派の典型とみられてきた。

今回のEU制裁が、同国を一段と中国に傾斜させかねないのは確かだが、因果関係は実は逆。

むしろ関税優遇こそがカンボジアを中国に近づけてきた。

EUがEBA協定をカンボジアに適用したのは01年。

その後EUは、11年に原材料の生産要件を撤廃し、途上国は加工工程を行えばよくなった。これがカンボジアの縫製産業に追い風となった。

ひとつはもちろんEUへの衣料品輸出の急拡大だ。

19年は35億ドル(約3700億円)と10年間で6倍に増えた。

以前は米国向けが大半だったが、14年に逆転し、近年はEU比率が4割超を占める。

もうひとつが、中国からの布地や糸などの輸入急増だ。

19年は32億ドル、こちらも6.5倍に伸びた。

いまでは3分の2を中国製に頼っている。

中国からの縫製工場への投資も11年を境に膨らんだ。

約600社の縫製関連企業の半数近くは中国資本。

中国からの工場進出と原材料供給は一体となって増えてきた。

EUの関税優遇停止で打撃を受けるのは、実は中国企業ともいえる。



問題は、対中FTAがEU制裁の影響を穴埋めできるかだ。

衣料品について世界銀行は8.7~10.4%減少するだろうと予測。

19年実績を基準にすれば、ざっと3億~3.6億ドル落ち込むことになる。

一方、カンボジア政府はFTAの発効で、対中輸出が25%増加すると予測するが、

差し引きすれば、制裁の影響は埋め切れない計算だ。

新FTAは詳細が明らかでないが、現地報道では、新たに340品目が関税撤廃される。

そこに含まれるコショウや乾燥トウガラシ、カシューナッツなどの農産物の輸出拡大が期待できる。

しかし農産品は天候や市況に左右されやすい。

また肝心の衣料品は、中国自身が一大輸出国であり、大幅増は望みにくい。

対中FTAが代替にならないことは、カンボジアも認識しているのだろう。

すでにインドや韓国ともFTA交渉に入った。

英国から、21年以降に関税優遇を取り付けられるかも焦点。

(出所)中国に傾くカンボジア、EU制裁を穴埋めできる? 日経新聞2020/09/15